井上 克也教授が 重い電子系物質でのキラルソリトン格子の発見により日本物理学会論文賞を受賞
広島大学 WPI SKCM² 主任研究員の井上 克也教授の共著論文が、日本物理学会 第30回 (2025年) 論文賞を受賞しました。本論文は、重い電子系物質におけるキラルソリトン格子の存在を世界で初めて実証した独創的な成果として、高く評価されました。
日本物理学会論文賞は、1996 年の創設以来、物理学の進歩に大きく貢献した研究者の功績を称える名誉ある賞です。選考対象は、日本物理学会が刊行する3つの英文論文誌(Journal of the Physical Society of Japan、Progress of Theoretical and Experimental Physics、JPS Conference Proceedings)に掲載された優れた論文です。今年で第30回を迎える本賞は、長期にわたり学術分野に影響を与え続ける研究成果を顕彰しており、井上教授の2017年の論文も、現在に至るまでキラル磁性体研究の発展に大きく寄与してきました。
「既存の研究手法が確立されているとはいえ、無機キラル磁性体の設計は依然として極めて困難な課題です。私たちは、世界で初めてランタノイドイオンを含むキラル磁性体の作製に成功し、そのキラル磁気構造を明らかにしました」と井上教授は述べられています。
受賞論文は、広島大学、埼玉大学、量子科学技術研究開発機構(播磨拠点)、名古屋工業大学の研究者らとの共同研究によって得られた成果です。
受賞研究の内容
キラルソリトン格子とは、結晶内で原子スピンが らせん状に配列する磁気構造であり、無数の微小な磁気コンパスが一本の軸に沿って回転しながらヘリカルなパターンを形成している様子として捉えることができます。この非自明な磁気秩序は、隣り合うスピンの向きを決める働きをもつ ジャロシンスキー・守谷相互作用により生じます。
キラルソリトン格子は、もともと高エネルギー物理学で理論的に予測された現象ですが、固体物理学の分野でも、スピントロニクスへの応用が期待される新たな機能性材料を創出する魅力的な磁気構造として注目されています。
キラルソリトン格子の最初の実験的証拠は、遷移金属化合物である一軸性キラルヘリカル磁性体 CrNb₃S₆ で発見されました。今回受賞した論文では, 性質の全く異なる物質においても同様の構造が実現し得るかを検証することを目的としました。本研究では、特殊な量子現象(非従来型超伝導、非フェルミ液体的振る舞い、量子臨界性など)を示すことで注目される重い電子系物質に着目しました。
「ランタノイドイオンのような重い電子系物質を取り入れることで、従来の遷移金属イオンを含むキラル磁性体とは異なる種類のキラル磁気構造が現れる可能性は理論的には考えられます。しかし、これまで成功例は報告されていませんでした」と井上教授は説明します。
研究チームは、新しい一軸性キラルヘリカル磁性体であり、希土類化合物である 重い電子系材料Yb(Ni₁₋ₓCuₓ)₃Al₉ の作製に成功しました。
共鳴X線散乱を用いて本材料中のキラルソリトン格子を観測した結果、ヘリカルスピン構造の回転方向は結晶の左手型・右手型によって変化し、伝播ベクトルの高次高調波成分は印加磁場が強まるとともに増大し、さらにf電子系にはd電子系とは異なる特徴が見られることが明らかになりました。
キラルソリトン格子は、WPI-SKCM² が進める「持続可能な未来のための超物質創出」において、研究者たちが解明し活用を目指している学際的で創発的な結び目構造やキラル現象の代表的な例といえます。
日本物理学会について
日本物理学会は、日本を代表する物理学者の学術団体で、物理学のあらゆる分野を対象に、国内外の科学の発展に大きく貢献しています。会員数は15,000名を超え、アメリカ物理学会、韓国物理学会、ドイツ物理学会など主要な国際物理学会と並ぶ規模を有し、これらの学会と相互協力関係を築く学術交流の中心的存在となっています。
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